お知らせ

2024.03.01

特別受益と持ち戻し免除の意思表示について

[特別受益の意義]

 民法903条1項には「特別受益」についての定めがあります。

 特別受益とは、お亡くなりになった方(被相続人)から遺贈や生前贈与(特別な利益)を受けた相続人がいる場合に、その特別の利益は「相続分の前渡し」であると考えて相続分を算出する、という規定です。

 具体的には、特別な利益を相続財産に持ち戻し(=みなし相続財産)、それを基礎として一応の相続分を算定した上で、特別な利益を受けた相続人については一応の相続分から特別な利益の価額を控除する、ということになります。

 この特別受益の考え方によると、たとえば複数のお子様(相続人)のうちの1人だけに特別なプレゼントを贈りたいと考えたとしても、遺産分割の場面では基本的に全員平等な状態へ戻ってしまうことになります。

【具体例】

 4000万円の預金があるAさんに2人のお子様(B・C)がいるとします。

 Aさんは、とある事情から生前にBへ1000万円をプレゼントしました。

 このとき、Aさんとしては、「CよりBに1000万円分得をさせてあげたい」と考えていたとします。

 しかし、Aさんが亡くなった後の遺産分割手続においては、民法903条により以下のような計算が行われ、結局B・Cには合計2000万円ずつが移動することになります。

  3000万円(死亡時の預金)+1000万円(Bの特別受益の持ち戻し★)

  =4000万円(みなし相続財産)

  4000万円×1/2=2000万円(B・Cの一応の相続分)

  2000万円-1000万円(特別受益の控除★)=1000万円(Bの具体的相続分)

  よって、元々の4000万円の最終的な移動先は以下のとおりになります。

  B 特別受益1000万円+具体的相続分1000万円=2000万円

  C 具体的相続分2000万円

 この結果をご覧いただくと、特別受益は相続分の前渡しである、という最初のご説明の意味が簡単にお分かりいただけるかと思います。

 

[持ち戻し免除の意思表示とは?]

 では、「BがCより1000万円分得をするようにプレゼントをしたい」と考えたAさんとしては、何をしておけばよかったのでしょうか。

 このような場面を想定した規定が「持ち戻し免除の意思表示」(民法903条3項)であり、これは、先ほどの計算の★の部分を行わなくてよいという意味の意思表示です。

  ※B・Cの相続分は3000万円×1/2=1500万円ずつになります。

 もっとも、民法の条文には、「持ち戻し免除の意思表示」という言葉は全く書いてありません。

 実際の条文には「相続人が前二項の規定と異なった意思を表示したときは、その意思に従う。」と書いてあるのですが、これでは全く何のことか分かりませんね。

 つまり、法律上は「持ち戻し免除の意思表示」の方式について特別の定めがないのです。

 これは、「書面にしなければいけない」とか「署名・押印をしなければならない」いったルールがないということですから、細々と厳格な決まりがあるよりは便利なようにも思えます。

 しかし、反対に考えますと、誰に伝えておけばいいのか?どのような書き方や言い方をすればいいのか?記録を取っておくとしたらどうすべきか?などなど、

 どなたかが亡くなった後で確実に持ち戻しを免除するためにはどうしたらいいのかという点について、実は様々な疑問や不安が出てきます。

 

[持ち戻し免除の意思表示の方法]

 この点、「確実に持ち戻し免除の効果を発生させる」という目的を達成するためには、やはり意思表示を書面にしておくことが推奨されるでしょう。

 なお、現代的な証拠化の方法としては、スマートフォン等で発言を録音・録画しておく・・・といった手段も考えられます。

 書面の形式にもルールはありませんので、全文をPC・ワープロ等で作成することも可能でしょう。

 もっとも、日付の記載や署名(自筆)・記名押印など、ご自身の意思表示(真意)であることが誰から見てもはっきり分かるようにしておくべきだと考えます。

 また、大学ノートやルーズリーフに記載されたものでも立派な書面ではありますし、スマホの録音・録画データなどももちろん証拠ではあります。

 しかし、有効性や永続性(汚損・破損・紛失のおそれなどがないこと)の観点からしますと、最も確実な手段は「公正証書遺言ということになろうかと思います。

 さらに、おそらく大多数の方々が気になるポイントは、持ち戻し免除の意思表示の「書き方」「言い方」ということになるでしょう。

 そこで、以下にごく一般的・抽象的な言い回しの例を掲げておきます。

■私(A)は、私の長男Bに対して、○年○月○日(○年○月○日から○年○月○日までの間)に1000万円を贈与したが、民法903条1項に規定する相続財産の算定に当たっては、上記贈与を相続財産の価額に加えないものとする。

■民法903条1項に規定する相続財産の価額の算定に当たっては、私(A)が生前長男Bに対してした贈与に係る財産の価額は、相続財産の価額に加えないものとする。

■私(A)の相続財産について共同相続人(B・C)間で遺産分割をする場合、私が生前Bにした贈与の持ち戻しは免除する。

 

上記のような書き方・言い方で書面その他の証拠を残しておけば、特定の相続人に特別なプレゼントをしたい、というご希望を確実に叶えることができるかと思います。

なお、持ち戻し免除の意思表示に関しては、「遺留分との関係はどうなるのか」「証拠が残っていなくても(黙示でも)認められるのか」といった問題があるのですが、それらはまた別の機会があれば記事にいたします。

 

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投稿者: 弁護士飛田貴史

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